MIHO LEGEND 美保伝説

美保伝説

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第5話 心身一如

心乱れたるは身体乱れたるなり。
身体乱れたるは心乱れたるなり。

思い起こせば、私が2003年から2005年までシニアリーグ(野球)の監督をしていた時期には、娘に構ってやれず、何か成績も大塚家具レディースで1勝したくらいで、あまり良くなかった様な気がします。
何かと色々なアドバイスは電話でしてきましたが、何せゴルフと言うスポーツをしたことが無い私ですから、メンタル面を中心にアドバイスをしました。
技術的な部分は、清元先生の理論を私なりに咀嚼、理解し、娘に伝えておりました。
野球の理論と似ている部分が結構あると思います。

私は2006年10月20日から22日に兵庫県で開催されたマスターズGCレディースを観戦しました。
初日のスコアは1オーバー44位タイと出だしがあまりよくありません。
ジュニアの頃からスロースターターで、初日は良くなく、後半追い上げるプレーヤーだったように思います。
初日が終わり、私は美保と同じホテルに泊まりました。
その試合のキャディーは「まりポン」こと吉田万里子さんが務めており、彼女は兵庫県出身ということもあり、自宅から通い、ホテルで私たちを拾って会場まで送迎してくれることになっていました。

大会2日目の朝、まりポンは、待てど暮らせど迎えに来てくれません。15分くらい遅刻して来たのです。
美保はプロのプレーヤーです。プロである以上、1分刻みのスケジュールを厳守します。
車の中でメンタルコントロールに入り、スイッチが入ります。スイッチが入り会場に着けばストレッチ・ショット・アプローチ・バンカー・パターと分刻みで、美保なりのルーティンを行います。
その重要なルーティンを乱された美保はホテルで、「お父さん!タクシーを呼んで!」と怒りの声。
が、私はここぞとばかりに年の功を活かし、「美保、あと5分だけ待ってみよう。」と落ち着かせました。「まりポンも人間だけん、自宅から来よっとだけん、寝坊しとるかもしれんね。」と待っていると、まりポンの車が到着しました。
コースへ向かう途中、二人とも一言も話しません。
美保は助手席に座り、ずっと左の窓の外だけを見ています。
車中、美保は唐突に「今日は予選落ちするけん、帰りの飛行機ば予約しとって」とわざと言います。私が飛行機のチケットの予約のしかたが分からないのを知っていながら。険悪なムードです。
私は、「あんまり、まりポンば責めると、可哀想たい。人間だけん失敗もあるたいね。許してやる心も大事ばい。」と諭し、まりポンにも、「今度からは絶対に遅刻したらいかんよ。選手は朝起きたときから、勝負に挑むためのルーティンに入っとるけんね。」と優しく話しかけ、少しだけ二人の中を取り持ちました。
しばらくしても二人の雰囲気は直りません。
そこで、私の得意な歴史の話で、細川ガラシャ夫人の話を聞かせたのです。やがて、コースに着こうとするとき、美保に「ガラシャ夫人の忍耐に比べたら、屁のごたるこったい。」と語ったとき、二人の雰囲気は笑いに変わったのです。

2日目を終わってみると、トップとの差は首位と1打差。絶好の位置におります。
最終日は最終組で、ポーラクリーマー選手・飯島茜選手とまわることになっておりました。

最終日の朝、さすがにまりポンはホテルの前に10分前には来ておりました。
行きの車の中では、昨日とはうって変わって和やかなムードで、三人でまたまた細川ガラシャの話で盛り上がり、コースに着きました。
到着後、パター練習をしていた美保が、お腹が痛いと言い出したそうで、まりポンが私の所に状況を伝えに来ました。整腸剤か胃薬なら持っているよと伝えると、女の子の日らしく、私はまりポンに「美保がそんなことを言うときは、ジュニアのときから必ず優勝するよ」と言い、まりポンも「本当ですか?」といった具合でスタートして行ったのです。
前半が終わり、同じ所属事務所の後輩である飯島選手に4打差をつけられ、優勝に手が届かないかもと思いながら、私は昼食として、簡単におにぎりをひとつ頬張りました。

サンデーバックナイン。
13番、14番と連続バーディー、15番ではアゲインストにも関わらずゴルファーで言うところの「今日一」が飛び出しイーグル、16番バーディーと、4ホールで5つスコアを伸ばす爆発力で、この日のスコアは66。
16番で飯島選手を逆転し、最後まで危なげないゴルフを展開しました。

優勝が決まり、私は報道陣に囲まれ、取材を受けることになりました。
細川ガラシャの話をしたことや、野球で培った最後まで諦めない気持ちの話を聞かせたことなどを語っておりましたが、私の目の片隅にちらちら映る優勝副賞の「キャデラックCTS」のことばかり考えていたような気がします。

次回はマスターズGCレディース2連覇の試合の話を致します。

美保語録 最後まで何があるか分からない。ゴルフとは怖い競技だ!

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